日仏文化講演シリーズ第396回
加藤周一(1919-2008)と遠藤周作(1923-1996)は、4歳違いですが、共に戦中・戦後にフランス文学・思想を学び、遠藤はまだ占領下の1950年にカトリック留学生としてリヨンに留学、加藤は1951年にフランス政府の半給費生として渡仏します。帰国後、1955年に遠藤周作は「白い人」で芥川賞を受賞して『白い人・黄色い人』を出版し、加藤は欧化と日本回帰のジレンマを乗り越える「雑種文化論」を発表します。留学小説としては加藤の『運命』(1956)、遠藤の『留学』(1965)があります。キリスト教の日本への移植の困難を描いた遠藤の傑作小説『沈黙』(1966)は、雑種文化論の格好のテーマになり得ますが、なぜか加藤の目にはとまりません。遠藤は母に言われて12歳で受洗し洗礼名はポール、同様に母がカトリックだった加藤は死を前に受洗し、洗礼名は医者のルカでした。これまで比較して語られることがなかった二人の作家・批評家の足跡を交差させることで、フランス留学が、その後の二人にもたらしたものの共通点と相違点を浮き彫りにします。
講師プロフィール

三浦信孝
1945年盛岡市生まれ、東京大学教養学科フランス科卒、1971年から仏政府給費留学生としてパリに留学、東京大学大学院仏語仏文科博士課程満期退学。現在は中央大学名誉教授、日仏会館顧問。常務理事時代に2010年から10年間、加藤周一記念講演会を企画した。日仏会館で数々の日仏シンポジウムを企画し、ルソー、トクヴィル、ヴァレリー、加藤周一、クローデル、渋沢栄一に関するシンポジウム記録論文集の共編著がある。

